先日、地球に帰還したとある宇宙飛行士が恐るべき変化を遂げていた。
宇宙飛行士の名はスコット・J・ケリー、NASA(アメリカ宇宙航空局)に所属する男性だ、アメリカ海軍に所属する軍人でもある。
スコット・J・ケリーにはマーク・E・ケリーという同じく宇宙飛行士で、一卵性双生児の兄弟がいる。
スコットは1年間の宇宙滞在を経て、地球へと帰還したが、帰還後の身体検査でスコットの遺伝子ゲノムが約7%も変化していたというのだ。
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260万年必要な”変化”
地球に滞在していたマークとの変化がどれだけ『驚くべきもの』であるか、改めて解説したいと思う。
研究によれば、宇宙飛行中の遺伝子の突然変異率は、1年で7%のゲノムの変化を生み出すことは出来なかった。また、ヒトとチンパンジーの間には2.6%の差があり、この遺伝子変化には260万年かかっている。
遺伝子変化を7%も蓄積するには、単純計算しても800万年以上かかるハズなのだ。重要なことは『スコットが宇宙で変化を遂げた』ことだろう。
実際にスコット自身のDNAは、宇宙でどのような変化が起きていたのか?
『7%も変化した』と主張する報道は、2018年1月31日に発行されたNASAからのプレスリリースを誤解したものだった。
スコットの遺伝子の93%が着陸後に正常に戻ったことは理解している。しかし、残りの7%は『長期的な変化ならば可能』だろう
つまり宇宙で長期間過ごすと、遺伝子に変化が起きる可能性を示唆しているのだ。
CNN(ケーブル・ニュース・ネットワーク)では、上記を報道した翌日にNASAが速やかに対応して修正された。
この7%の違いはDNA全体ではなく、遺伝子発現の仕組みであると指摘した。
言い換えれば、宇宙飛行士のゲノムそのものは変化しなかったが、『活発に使用されていた部分があった』のだ。
しかし、どの遺伝子が活性化されていたのだろう?
ゲノムはDNAで書かれた一連の情報媒体のようなものだ。
さまざまな遺伝子を発現させることによって、我々の身体はRNA(リボ核酸)やタンパク質などの分子を作るために、遺伝子ゲノムが生成されている。
それぞれの分子は異なる生物学的な役割を担っているが、NASAは指摘したように遺伝子発現の変化を、人間の生理学が宇宙環境で変化することを前提として考えている。
いや、そのように予想したくなるのも無理はない。
実際にスコットの遺伝子ゲノムは部分的に変化していたのだから。さて、問題はどの遺伝子が積極的に使用(または発現)されて、どのような生理学的変化に反応したか。
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人間の高い環境適応能力
有意的変化が起きたのは、酸素および二酸化炭素レベルに応答する遺伝子変化を含んだ部分だと示された。
消費エネルギーを減少させる能力(細胞が栄養素を化学エネルギーに変える)と、骨に関連する変化も報告され、感染への免疫力とDNAの維持能力の向上に関連する変化も報告された。
これらのレポートは我々が予測したものに近いように感じる。
スペースポートは細菌感染を防ぐためにほぼ無菌状態を維持し、食料に関しても少量で栄養補給を可能にする『宇宙食』が常備品だ。
加えて、無重力という環境が筋肉や骨への負荷を減少させることで、重力下での運動量と大幅に差が出るだろう。
これは過去に宇宙飛行した動物達に見られたもの(『NASA GeneLab(英語サイト)』と呼ばれる、動物の遺伝子発現データを維持するリポジトリ)と相関している。
酸素使用に関する遺伝子改変および免疫力は、宇宙飛行士が密閉された環境にいることに起因する可能性が高い。
潜水艦のように、国際宇宙ステーション周囲の酸素レベルは、地球上とは大きく異なる。遺伝子発現の変化により宇宙飛行士はこの新しい環境に適応することが出来るようになるだろう。
生物は地球上でも多くの環境変化に順応するために、新たな力を身につけていった。
それは赤ん坊が子供へ、子供から大人へ成長していくように、自然と身についていくような些細な変化かもしれないが、人類という種族がまた新たな進化の戸口に立とうとしている瞬間でもある。