うつ病という言葉が認知されてから、どれくらい経っただろうか?
実際は言葉ばかり広まって、個人の価値観や実情とのギャップに苦しんでいる人は多く居るだろう。
脳内物質『セロトニン』の不足、ストレスによる交感神経の過剰活性など、医学的根拠も出始めているが、完治するまでに至っていない。
近年では心の風邪ではなく、『こころのガン』だとすら言われている。それだけ時間をかけたメンタルケアが求められるのだ。
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うつ病は言葉に力をもたらす
うつ病は日常生活から、周囲の人間とのコミュニケーションに至るまで、あらゆるものとの接し方を変化させる。
最近の研究では『うつ病患者の言葉、表現方法にも影響力の変化が目立つ』というのだ。
ボストン生まれの小説家にして詩人、シルヴィア・プラス(Sylvia Plath)の詩文、ロックバンド・ニルヴァーナのボーカリスト兼ギタリストのカート・コバーン(Kurt Cobain)の歌詞の影響を考えてみて欲しい。
さらにシルヴィアとカートの共通点は、どちらも『うつ病に苦しんだ末に自殺してしまった』ことだ。
精神医学の研究者らは、うつ病と言語の関係を精密に把握しようとしている。
臨床心理学の学術誌『Clinical Psychological Science』に掲載された新たな研究では、『誰かがうつ病に苦しんでいるかどうかを正確に予測する』ために役立つスペルを発表した。
この分野の言語分析は、研究者がノートを読み、メモをとるというアナログな方法で行なわれてきた。
昨今では、デジタル化した文章の分析方法により、非常に多くのデータバンクの処理を数分で行なうことが可能になっている。
これは、人間が見逃す可能性がある言語的特徴を見つけ出すのに役立ち、単語および単語クラスの割合、語彙の多様性、文章の平均的な長さ、文法パターンなど他にも多くの測定基準から計算されるのだ。
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言語は『情報』と『文体』で構成されている
文章はコンテンツ(情報や表現)、スタイル(文体)という2つの要素で完成している。
情報が無ければただの文字の羅列であり、情報データだけでは文章として理解することが出来ない。
小説や歌詞など、文体に込められた表現が伝わることで、初めて『文章』として成立するのだ。
情報とは伝えたいこと、表現したいこと(ステートメント)でもある。
歌やコンセプト、テーマといった部分に関連してくるだろう。
うつ病を抱える人は『孤独』や『悲しい』『悲惨』といった、ネガティブで否定的な感情を用いやすい。
特に、否定的な形容詞や副詞を過剰に使用することは、まだ多くの人が気付いていない。
特に興味深いのは『代名詞の使用法』だ。
鬱の症状をもつ人は「私」「僕」「自分」などの一人称の代名詞を特に多く使う。
それに対して、二人称や三人称である「彼女」「あの人」「彼ら」などはほとんど使用しない。
このような代名詞のパターンはうつ病の人々が自分自身に意識を向けるあまり、他者との繋がりが希薄であることを示す。
研究者は「代名詞が実際には『負の感情語』よりもうつ病患者を特定することにおいて『信憑性が高い』」と報告している。
しかし、こうした精神病学にかかわる罹患者は
- 責任感が強い
- 周りの目を気にする
- ルールや規則を遵守する
など、他者を気遣うものがほとんどという。
もしかしたら周囲を優先するあまり、自分自身とのコミュニケーションがとれていないのかもしれない。
読書をする、映画を観る、植物園や美術館にいくのも手段のひとつだろう。娯楽は心に潤いとゆとりをもたらすためにある。
そういった最低限の『文化的な生活』を過ごせている日本人は、今の社会にどれだけいるだろうか?