ネアンデルタール人とは、すでに絶滅しているヒト属の一種であり、人類の共通祖先ともいうべき存在。
ネアンデルタール人は人類の直系先祖ではないとされているが、染色体(ゲノム)にホモ・サピエンスの遺伝子を僅か数%とはいえ、混入していることから、人類と全くの無関係とは言い難いだろう。
2万年以上前の地球に存在していたネアンデルタール人もまた、独自の文化を形成していたが、今回の発見でネアンデルタール人の脳構造が判明した。
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描画出来なかった理由は狩猟方法にある
ネアンデルタール人は現生人類の先祖に比べ、大きな頭蓋と脳を保持し、複雑なツールの製作も可能であった。
しかし現生人類とは異なり、岩や洞窟の壁に動物や人物を鮮明に描写することは出来なかった。
その感性の差は、ネアンデルタール人の狩猟法との違いによるものかもしれないが、カリフォルニア大学デイビス校にて『狩猟者と獲物の関係』と『その行動の進化への影響』が専門家より示唆されている。
狩猟といえば、縄文人は犬と一緒に狩りに出ていたとされている。
栃木県の藤岡神社遺跡からはイノシシと犬の土製品が発掘されており、『最初に家畜としてイノシシと犬が飼い始められた動物ではないか?』と考えられている説も存在する。
話が脱線したが、ネアンデルタール人が描画出来なかった理由は狩猟方法にあるのではないか?とされた。
ユーラシア大陸を居住地としていたネアンデルタール人は獲物を狩るため、近づいて槍を刺していた。
一方、アフリカ大陸に住むホモ・サピエンスや、現生人類は槍を投げつけて狩りをしていた。距離を置いているとはいえ、武器を手放すことで無防備になる。常に命がけの危険な駆け引きだったと言えるだろう。
心理学の名誉教授であるリチャード・コス氏はこのように語っている。
槍を投げる人類は脳の機能が発達して文明を残していく!ということですか。
その通りです。槍を投げて狩りをすることと、表現的芸術を描くことの双方に関わる手と目の相互作用は、現生人類がネアンデルタール人より賢くなった理由の1つの要因と言えるでしょう
『離れた位置から攻撃する』ことの重要性は、過去に起きた戦争においても証明されている。
投石機(カタパルト)、弓、そして銃や砲。これらの存在によって戦局は大きく左右されていた。人類にとって『遠投』はまさに最古の技術の1つと言えるだろう。
リチャード・コス氏の提言により、人類の脳の進化において新たな理論が提唱されている。
――ホモ・サピエンスは頭蓋骨を丸く発達させたことで、視覚情報、運動情報を相互に作用し、統合する脳の領域である頭頂皮質を大きく成長させた、と。
リチャード・コス氏の論文は元大学院生と2015年に研究した際に生まれた。
「人類の居住地近郊に生息するシマウマは、人間が歩いて近づいた姿を発見して逃げてしまうため、接近することが出来ない」と報告しました。また「ネアンデルタール人は現生人類の祖先の住まうアフリカ大陸には赴かず、ユーラシア大陸で馬やトナカイ、バイソンなど、大規模な狩猟を行い、近づいて槍や棒による刺突を行っていた」ことがわかりました。
つまりネアンデルタール人は槍を使わなかったため、縄文人のようには発展しなかったと?
はい、そうです。ネアンデルタール人は、見たことのある動物を視覚化することは出来ましたが、それらの抽象的なイメージを描画するために必要な『細かい手の動き』を効果的に発揮することが出来ませんでした
リチャード・コス氏は芸術と人間の進化に焦点を当てた研究では、南フランスのヴァロン=ポン=ダルク(ショーヴェ洞窟)を例に挙げている。
『描くのに必要な視覚的イメージは、狩猟者が動物を狙い撃つために、槍がどのような軌道をえがくかイメージするのと同時に、腕の動きを調整するために培われた』とコス氏は結論づけており、その結果『ドローイング(製図/デッサン)』を発明したことで『現生人類の文化に劇的な変化をもたらした可能性がある』ことを提唱した。
「描く行為は観察技術を向上させる。おそらく洞窟の壁画は狩猟の概念化、狩りの注意力に対する評価、弱点を狙うための参考、そしてグループの結束力の育成に役立てたのでしょう。精神的なイメージをグループで共有する能力は、社会的に大きな影響力をもたらす」とコス氏は述べた。